『知ってる顔が同じとは限らない』
33
「なんやこれ、カードが光っとるんか?」

 物珍しそうに手を伸ばすカグラだったが。
 背後に気配を感じて動きを止めた。

「お、いち早く俺に辿り着くとは流石我がライバルの子孫やな」

 振り返りもせず言うカグラに、気配の正体……紡は悲しげな表情を浮かべた。

「カグラさん……手を引いてください。 今からでも遅くはありません」

 忠告、ではなく願い、目の前の男が引く事を切に願っていた。
 たが、男は怪盗である。
 目の前の宝をみすみす見逃すはずもないことも、紡は理解していた。
 手にしている剣が微かに震えているのは、祖国を助けてくれた恩人と刃を交える事への恐怖だろうか。

「残念やが紡ちゃん。 それは無理なお願いやな」

 予想通りの答えに紡は顔をしかめる。

「どのみち他の場所でお宝頂くつもりやったし、ちょっと予定変更しただけや」

 飄々としながらカードに手を伸ばすカグラ。

「止めてください!」

 叫ぶや否や剣を抜き放ち、刃がカグラの首筋に牙を剥く。
 しかし、その一閃は空を切り、残光が闇を裂くだけに止まり、紡は呻いた。

「そんな迷いだらけの剣筋じゃ、俺に掠りもせえへんよ」

 そう言うカグラは本棚の上に着地すると、台座にあったカード達を見せびらかすように揺らした。

「っ!?」

「さって、貰うもん貰うたし、そろそろお暇しよか!」

 カグラは立ち上がると指を一度鳴らした。

「待たせたな相棒」

 言うが早いか壁が勢いよく崩れ、瓦礫と本が辺りに散らばった。
 穴が開いた城壁から見えるのは満天の星空と、光輝く光子の竜の姿。

「ほな、紡ちゃん世話んなったわ!」

「待ってくださいカグラさん!」

 竜に飛び移ろうとしたカグラだったが、紡の呼び声に応えて振り返る。

「そのデッキ今は預けます……次会った時は――」

 笑みを浮かべて言う紡にカグラは笑みで返した。

「また来いって事か? ハハッええでええで! そんときは真木波君並に……いやいや、真木波君越えててくれや!」

 カグラは光子竜に飛び移ると、間髪入れずに飛び去っていった。
 その姿を見えなくなるまで紡は見送っていると。

「チィ……遅かったか」

 カグラと入れ替わるように晋吾達が部屋へ入ってくる。

「すみません。 ここにあったカードを盗られてしまいました」

 頭を下げる紡だったが、晋吾からお咎めは無く。

「頭を上げろあいつの術中にハマってしまった俺達にも非がある。 それに――」

 一度言葉を切り、主が居なくなって床に転がった台座を見つめてから話を繋げた。

「あのカード達はかつてガウェイン様が討伐した竜の精霊達が封じられている。 狂暴すぎて誰も扱えないから此所に安置してあったものだ」

「じゃあカグラも宝の持ち腐れになるってこと?」

 桐子の問いに首肯した晋吾は、視線を壁に空いた大きな穴、その向こうに見える空に移した。

「怪盗、カグラ……か」



月光龍 ( 2015/12/25(金) 08:44 )