『知ってる顔が同じとは限らない』
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「お? 案外時間稼げへんかったな」

 城の廊下を走りながらカグラは面白そうに笑った。

「力は劣るけども、仮にも俺の分身なんやけどなあ」

 そう言ったカグラの瞳は金色に変化しており、妖しい光を帯びていた。

「凄いねカグ君、魔法も使えるの?」

 感心したように呟く五十鈴にカグラはニヤッと笑う。

「まー俺の体は特殊でな。 精霊の力を取り込む事が出来るんや」

「じゃあ今は……」

「魔法使いの精霊の力を使うた、ってとこや」

 カグラは自分の分身を作り出し、正面から入らせて囮にし、自らは少し遅れて正門を潜ってきたのである。
 今頃それに気付いて本物のカグラを探すのに躍起になっていることだろう。

「あっちは殺気バリバリやからねえ。 負ける気はせえへんけど、まともにやり合いたくは――っと……!?」

 ある扉の前で急ブレーキを掛けるカグラ。
 その反動で飛ばされない様、五十鈴はしっかりとマフラーを掴んで耐える。

「ど、どうしたのカグ君?」

「ここからお宝の臭いがプンプンするで」

 カグラが見付けたのは、堅牢な造りの鉄の扉だった。
 鍵がいくつも施されたそれは、如何にも大切な物を補完していそうな雰囲気が漂っている。

「せぇーのっ!」

 気合いを込め、扉を殴り付けるが多少ヘコませる事は出来たが破壊するには至らない。
 逆にカグラの拳が赤く変色していた。

「いててて……」

「大丈夫?」

「まー軽いダメージやけど……ん?」

 振りながら手を冷やしていたカグラは、扉の南京錠を見てあることに気付く。

「……鍵穴があらへん、魔術的な感じかいな?」

「どうするの?」

「んー今魔法使える言うても、こういう細かい作業は向かんさかい……スズ」

「どうしたの?」

「俺が渡したカードに【魔法除去】入っとるやろ?」

 五十鈴はカグラの意図を察し、護身用にと渡された魔法・罠が入ったカードホルダーを取り出し、1枚のカードを抜き取ると小さくなったデュエルディスクに差し込んだ。


ガチャリ


 と、軽快な解錠音と共に重々しく扉が開いていく。

「よし、よくやったでスズ!」

 マフラーから顔を出している五十鈴の頭を人差し指で撫でると、五十鈴は気持ち良さそうに目を細めた。
 部屋を見ると、本棚が両脇に並んでおり、差詰書庫と言った様相だ。

「なんなん? ここ」

 書庫にしては警備が厳重である所を見るに、何か重要な物があるのだろう。
 そう踏んだカグラは書庫の奥へと歩を進めていくことにした。
 明かりはないようで、奥の方がどうなっているか確かめる事は出来ず、カグラ懐中電灯を取り出して周囲を照らす。
 本棚が立ち並んだ様は一本の通路のようになっており、カグラはそれに沿って歩いていく。

 然程の広さは無かったようで、程なくして『それ』はすぐに見付かった。

「? デッキ?」

 部屋の最奥、円形に開けた空間――五人も入れば狭く感じられる程度の物ではあるが――の中心部に石の台座が置かれており、その上に丁寧に敷かれた赤い布に一つのカードの束が乗せられていた。
 近付くとそのカードは淡い光を纏い、弱々しく明滅しているように見えた。


月光龍 ( 2015/12/14(月) 14:15 )