『知ってる顔が同じとは限らない』
29
 橋も終盤に差し掛かる頃、ピタッとカグラが歩みを止めた。

「カグラさん?」

 首を傾げる紡をカグラは――。

「ちょいと失礼するで?」

「きゃっ」

 紡を抱き抱え――所謂お姫様だっこの――後方へ跳んだ直後、轟音が耳に届く。
 恥ずかしさで何が起こったか整理出来ずにいる紡だったが、先程二人がいた場所に目を配ると三つの人影を見付けた。
 多少砕けている所を見ると、何かしらの攻撃を受けたのだろうと窺えた。

(残党?)

 だが、目を凝らして見るとそれは見知った顔であった。

「桐子様に、晋吾様とランスロット様?」

 この国の騎士である3人が敵意むき出しの顔を紡達に――否、カグラに向けていた。
 カグラはゆっくりと紡を下ろしてから口を開く。

「なんやえらく恐い顔してどしたん?」

「惚けるな怪盗」

 酷く低い、殺気に似た気配を放ちながら晋吾はカグラを睨んだ。

「ERKの城の宝物庫が空になっていた、お前の仕業だろう?」

 凄む晋吾とは打って変わって、カグラは怪訝そうな顔を見せた。

「ERKって桐子ちゃんと真木波君(孫)の城やろ? 場所すら知らへんのやけども」

「そうですよカグラさんはずっとこの城に――」

 カグラと紡の反論を受けて、晋吾は眉間に皺を寄せながら、何も言わずに1枚の紙を取り出した。

「現場にはこれがあった」

 そこには『カグラ参上!』と書きなぐられていた。
 字体もカグラ本人が見間違えそうな程である。
 しかし、カグラ本人はそんなもの書いた覚えはない。
 偽物か――はたまた。

(この世界の、俺、か)

 居る事は感付いていたが、まさか職業まで被っていようとは思いもせず、カグラは頭を掻いた。

(あー! なんちゅうタイミングでやってくれるんや! ていうかそんなことより!)

 間の悪さに理不尽な怒りを抱くカグラだったが、それより確認すべき事があった。

「潮君、予告状は?」

「?」

「被害にあった城に予告状は来たんか?」

 怪盗カグラの美学、予告状を出し、相手の張った警戒網を掻い潜った上で予告した物を盗む。
 それがカグラにとっての唯一無二のルールである。

「そんな報告は受けてないが……」

「じゃあー俺やないわ。 俺が盗む時は予告状を出すで」

 苛立った表情でカグラは言う。
 同じ怪盗である別世界のカグラとの怪盗としての差異がある事への苛立ちだろう。

「盗人の話は信用出来ませんわ」

 と、一蹴するランスロット。

「お前は祖国防衛の貢献者でもある……今ならば、盗んだものを返せば糾弾はしない」

 と、晋吾。
 本当に聞く耳はないようだ。

「で、どうなの?」

 探るように聞いてくる桐子はまだ、カグラの話に耳を傾けているようだが、疑いは晴れていないようである。

「俺は仕事じゃ人騙す事あるけど、プライベートで嘘は吐かへんで」

 カグラは胸を張って言うのだが……。

「話の続きは尋問室で聞こう」

 晋吾の態度に――。

「だああああ! 君はホントに人の話聞かへんな! もうええ!」

 怒りを露にしたカグラは懐から、晋吾に1枚の紙を投げ付けた。
 顔面に当たる寸前に晋吾は紙を受けとる。

「予告、状?」

「そないに俺のやり方が信じられへんなら見せたるわ!」

「カ、カグラさん?」

 カグラの宣言に驚く紡だが、カグラは止まらない。

「今から、城のお宝頂くさかい、止められるもんなら止めてみい!」

「ここから逃げられるとでも思っ――」

「ショータイムや相棒!」

 鼻で笑う晋吾を遮り、カグラは銀河眼を顕現させ飛翔する。
 上空でなく、池ギリギリを低空飛行して、茂みへ真っ直ぐ進んでいく。

「行くで! スズ!」

「!? うん!」

 すれ違い様に、五十鈴を回収して夜空へと舞い上がる。

「チィッ!」

「はあ……貴方が煽るから」

 舌打ちする晋吾に溜め息を吐く桐子。

「とりあえず、城へ連絡だ! 何としても宝を守るぞ!」

 こうして、騎士達に喧嘩を売ったカグラは城へと突入していくのだった。


月光龍 ( 2015/11/13(金) 14:14 )