『知ってる顔が同じとは限らない』
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 尾行されているとは露知らず、カグラは紡に手を引かれ、城の外れにある庭園へとやって来ていた。

「えっと、殿方との逢い引きは初めてで、何処へ行くか分からなくて……」

 と、顔を紅潮させる紡にカグラは苦笑してみせる。

(昨日の冗談をしっかり覚えとるんやなあ……生真面目っつーかなんつーか……)

 カグラが昨夜言った「デートさせてくれ」という冗談を、しっかりと叶えようとしているのであろう。
 案内された庭園は大きな池があり、それを横断出来る橋が架けられ、今二人はそこを並んで歩いている状態である。

(まあ、なんや雰囲気はええとこやし、一生懸命考えてくれたんやなあ)

 月明かりが程よく当たり、水面に映る月も美しい。
 次第に冗談で言った事を申し訳無く感じてきてしまう程に……。

「あ、あのカグラさん?」

「お、おう。 なんやなんや?」

「気に入って頂けましたか?」

 このデートスポットの事か、カグラは素直に頷いた。
 それに満足したのか、紡の顔に笑顔の花が咲く。

(あー、なんか違う世界言うても、真木波君に言ったらぶっ飛ばされそうやなあ)

「やはり、城を守って下さったカグラさんには満足していただきたくて……」

「一宿一飯の恩を返しただけなんやけど」

「それでも、恩人には変わり在りませんから」

「さよか」

 観念したように溜め息を吐いたカグラは微笑を浮かべて、橋を歩き出した。

「折角やし、もうちょい歩こか?」

「はい」

 カグラの提案を満面の笑みで返す紡は、カグラの傍らを歩くのだった。





「おいおい、なんか良い感じになってないか?」

「不潔……」

 茂みに身を潜めて二人の様子を伺う五十鈴と繋――。

「私も居るぞ」

 と、ガンダーラ。

「ガンダーラ静かに!」

「う、うむ」

 五十鈴の剣幕に怯む巨躯の男……なんとも情けない姿である。

「あっ、歩き出したぞ」

 二人が橋を進み始めたのを認めると、五十鈴達も後を追い始めるために動き出す――が。

――ヴヴヴ

――ヴヴヴ

「「!?」」

 茂みに響く振動音、聞きなれたそれは携帯の着信を示すものだ。
 だが、五十鈴の携帯は別世界のもののために通話など出来るはずもない。
 必然的に繋の物、ということになる。

「ば、ばれてない、よな?」

 幸い離れている二人に気付かれている気配はない。

「よし、ちょっと席はずすから追跡を続けてくれ」

 繋に託され、五十鈴は力強く頷いた。
 それを確かめた繋は通話ボタンを押し、通話をしながら茂みの奥へと消えていった

(カグ君……)

 遠目からでは何を話しているかは分からないが、楽しそうなのは伝わってくる。

(やっぱり、大人の方が良いのかなあ)

 と、ペタペタと胸元を触る五十鈴を、ガンダーラは娘の成長を見守る父親の様な複雑な表情で見ていた。

「なんだったんだ……」

 と、ぼやきながら帰ってきた繋は頭を掻いていた。

「用事は大丈夫ですか?」

「なんか、桐子さんに所在聞かれてカグラもここにいるのを伝えたら電話切られた」

 繋の話を聞き、五十鈴も首を傾げる。
 カグラがここにいる、それを聞いて通話を切った桐子、つまりはここに来るということか?
 何のために?
 カグラへの謝礼だろうか?
 それとも五十鈴達と行動を共にするためか?
 それとも――。

月光龍 ( 2015/11/08(日) 11:54 )