『知ってる顔が同じとは限らない』
26
+ 

「先日はありがとうございましたカグラさん」

 晴れ晴れとした空の下、紡は深々と頭を下げた。

「ええてええて。 泊めてもろてる身やから、って昨日も言うたやん?」

「いえ、カグラさんが食い止めて下さらなかったら、きっと被害が出ていたでしょうから」

 あっけらかんと笑うカグラだったが、謝礼の態度を崩さない紡にカグラは多少戸惑いの表情を浮かべ、「真面目やなあ」と苦笑して見せた。

「時に紡ちゃん」

 話題を変えるためか、カグラは城外の地平を見渡しながら紡を呼んだ。

「なんでしょう?」

「何でこっちに敵さんは来ないんやろな」

 カグラ達の耳に小さいながらも戦闘音が届いているにも関わらず、彼等の目に人影一つ映りはしない。
 現在、城は皇帝軍、謎の機械兵士による侵略を受けている状況であら、正門や幾つかの出入り口で激しい戦闘が繰り広げられているはずである。
 だが――。

「何か、他人事みたいに感じてまうな」

 昨夜、カグラが守っていた門、そこに敵は現れていないのである。

(俺の気配を察知して避けとるんか? まあ、妥当な判断か……)

 カグラはニヤリと笑って考察する。

(他んとこ救援行くか? 否、あかんな……俺が動いたら手薄になったこの門が狙われるだけや……なら)

 カグラは紡に顔を向けると、ある提案をする。

「紡ちゃんは兵隊さん連れて他を援護してくるとええ」

 意外そうな表情を浮かべる紡に苦笑しながら、カグラ説明を始める。

「恐らく敵軍は昨日の一件で、俺が居る場所は敢えて避けとる。 今の現状がその証拠やね。 で、俺が動けばすかさず此所に攻め行ってくる腹積もりなんやろ」

 一度言葉を切り、「せやったら」と話を続ける。

「俺一人が残って、此処の兵士を他へ回したほうが良かない?」

「……なるほど」

 思案顔を見せる紡だったが、待機していた兵士から抗議が出る。

「そんなことを言って皇帝軍を招き入れる気だろう」
「余所者を信用する気はない」

 カグラを快く思わない兵士達だろう。
 それを顔を赤くして批難しようとする紡だったが、カグラはそれを手で制した。

「君等の言う事は尤もや……せやけど、今お仲間が危ないんちゃうん?」

 遠くから聞こえる戦闘音、そこからは戦いの激しさが伝わってくる。
 兵士達は今すぐにでも駆け付けて行きたいのだろう。
 彼等の葛藤が見てとれた。

「……裏切るわけあらへん。 あの城には連れもおるねん。 あそこ落とされたらスズも只じゃ済まへん……」

「あの女の子か……」

 部屋で待機している五十鈴はサイコデュエリストで、隣にはガンダーラが一緒にいるが、戦闘に巻き込まないに越した事はない。

「俺は此処から動けん。 せやから君等で守ってくれへん?」

 微笑を浮かべて頼むカグラ。
 その笑みは何時ものふざけた物ではなく、何処か儚さを含む物だ。
 兵士達は一度顔を見合わせると頷き、号令を掛ける。

「これより我等は他の部隊への救援へ向かう! 行くぞ!」

 地鳴りのような激しい返答と共に、兵士達は隊列を組んで援軍へと向かっていった。
 それを見送ったカグラは城外を見渡せる場所で腰を据え、自身の気配を出し続ける。

「……で?」

 と、カグラは振り返り、自分の僅か後方にちょこんと座る紡に問い掛ける。

「紡ちゃんは行かへんの?」

「カグラさんの監視の任はまだ完了していませんから。 お一人じゃもしもの時対応出来ませんしね」

「あーそらおおきに」

 苦笑を見せてからカグラは。

(強引さは真木波君譲りかも知れへんな)

 と、遊騎の影を紡に見るのだった。

月光龍 ( 2015/10/28(水) 08:44 )