『知ってる顔が同じとは限らない』
25
「これで終いかいなシオニスちゃん?」

 挑発的な笑みを浮かべるカグラに、シオニスは苦い顔を見せる。
 動かした兵力も怪盗の放った竜達に阻まれ進軍出来ずにいる。
 城の騎士達もまもなく出撃してくるだろう。
 城外での乱闘になってしまえばシオニスの思惑とは大きく外れ、城の内部に打撃を与えられない可能性が高く、それはシオニスの敗北と呼ぶに等しかった。

「やってくれたね怪盗さん」

「それほどでも?」

 苛立ちを露にしながら口を開くシオニスにカグラは軽く笑う。

「今回は私の負け、退かせてもらうね」

「ん、無難な選択やね」

 シオニスの騎士達が次々と機能を停止し、姿を消していくのを見て嘘はないと判断したカグラは構えを解いた。
 同時にカグラの様子も元に戻っていく。


 でも、貴方は邪魔だから、此処で消えてもらうね?」

 カグラの変化を見逃さずに、シオニスは僕を召喚した。
 破砕鎚のような巨大で武骨な腕を持つ巨人で、その体躯はカグラの四倍はあるだろう。
 主が命じる間でもなく、巨人は腕をカグラに向かって降り下ろした。

「いやー胸はデカイ方がええけど、デカけりゃええっちゅう考えは頂けへんね」

 悠々と一撃を避けて見せたカグラは巨人の腕を軽くノックして笑った。

――オォォォオオ!

 巨人の咆哮が大気を震わし、カグラがノックした腕と反対の腕を横薙ぎに振るう。
 カグラは垂直に跳び上がって腕を避けると、巨人の腕に着地、腕を駆け上っていく。

「去ねや!」

 巨人の頭へと到達したカグラは、体を捻り側頭部に強烈な蹴りを見舞う。
 何倍もの体躯の差がある相手が、蹴り一発でよろめき轟音を立てて倒れた。

「さあって、どないするんシオニス……ちゃんって…………あれ?」

 カグラが巨人を倒す間に撤退したのだろう、既にシオニスの姿は無かった。

「ん、まあええか……あんだけやっときゃ此所には手ェ出さへんやろ」

 そう呟くカグラの背後から重苦しい音が鳴り響く。

「あーしつこいで君?」

 振り向いたカグラの前には、一度は倒れた巨人が立ち上がろうとしていた。

「やっぱこないなデカブツは相棒に任すわ」

――ゴォォオオオ

 カグラに応えるように銀河眼が飛来し、雄叫びを上げる。
 騎士達の援軍が間に合い、戻ってきたのだろう。

「いっくでえ相棒!」

――“破滅のフォトン・ストリーム”

 光子竜の放つ熱線が巨人を包み込み、その身を焼き尽くした。
 




 カグラのいる地上の遥か上空、そこにシオニスはいた。

「やっぱりやられちゃったか」

 自身の手駒がやられるのを見てシオニスは呟くが、その表情に悔しさは見られない。
 寧ろ微かな笑みすら浮かんでいた。

「かなり私の兵力は減っちゃったけど……それを補う収穫はあったし、まあいいか」

 シオニスは地上に君臨する竜を、憎悪を、愛情を、期待を以て見つめる。

「ふふっ……すっごい精霊見付けちゃった。 明日、見せてあげるねお兄ちゃん」

 そう言ったシオニスの囁きは誰に届く事なく闇に消え、シオニスの姿も闇に溶けていった。

月光龍 ( 2015/10/13(火) 09:38 )