『知ってる顔が同じとは限らない』
01


「うーし、スズ準備はええか?」

 自分の手荷物を確認し終わった怪盗カグラは、自慢のウルフヘアを整えながら旅支度をしている少女、五十鈴に尋ねる。

「ちょっと待ってよカグ君、えっと……もうちょっと食べ物持った方がいいかな?」

 五十鈴は青い髪を忙しそうに揺らしながら、大きめのリュックに食料や衣類を詰め込んでいた。

「なー、スズぅ。 さっきも言うたけど、食料なんて現地調達すりゃええやん? 服なんかも含めてのぅ」

 そんな五十鈴に呆れたように声を掛けるカグラ。
 彼の一言一句には待ち疲れた子どものような感情が込められていた。
 それもそのはず、カグラが支度を終えてから早1時間ほど経っているのだから。
 カグラの言葉を聞いた五十鈴の表情が僅かに曇っていく。

「カグ君、またそんな言言って……何処に『飛ぶ』か分からないんだよ?」

 『飛ぶ』、彼女が言うのは異世界を行き来する精霊の力を借りて別の世界を渡り歩く、というもので――。
 何時、何処に辿り着くか一切分からないのである。

「砂漠の真ん中とかに落ちたら大変でしょ?」

「スズは心配性やなあ」

 と苦笑しながら頭を掻いたカグラは隠れ家の壁に背を預け、五十鈴の様子を見守る事にした。
 そんなカグラに気付き、五十鈴も荷物の準備を進めていく。

(しっかし……色んな顔する様なったなあスズ)

 今も豊か、と言うほどではないが出会った当初とは別人のような表情を見せている。

(これも、真木波君のおかげかもしれんねぇ)

 カグラが(勝手に)認めたライバルの探偵、彼と五十鈴を会わせなければ五十鈴は今ここには居なかったろう。

(んー、また土産になんか盗ってたろうかな)

 土産に盗品、と考える怪盗の鑑だが……贈られる側は堪ったものではない……。
起こるであろう探偵の災難さておき、カグラの生暖かい視線を感じて、五十鈴は顔をカグラに向き直した。

「? 私の顔に何か着いてる?」

「いやー、スズは可愛えなあ思うてな」

「え!? カ、カグ君」

 カグラの一言にほんのりと頬を赤く染める五十鈴だったが。

「いやー妹が出来たみたいで嬉しいわ」

 カグラのその一言で一瞬にして華やかな表情は見る影も無くなった……。

「て、なんか寒ない?」

 心なしか室内の温度が下がったのはカグラの気のせいではないだろう。

「カグ君の馬鹿……」

 ボソッとカグラに聞こえない程度の声で五十鈴は呟いた。

「なんか言うたかスズ?」

「ん……」

 そっぽを向き、五十鈴は支度に戻る。
 首を傾げるカグラの肩を叩く者が一人。
 カグラの背後に修行僧の様な姿をした巨漢が立っていた。

「貴様は……女心と言うものが分かっていないようだ」

 ため息混じりに言うのは、五十鈴のデッキに宿る精霊『氷結界の虎将 ガンダーラ』である。

「精霊の君には言われとうないわハゲ」

「なっ!? 何度言ったら分かる! これはスキンヘッドだ!」

「俺からすればどっちも同じや!」

「良かろう……今日こそ貴様を矯正してやる。 表へ出ろへっぽこ怪盗」

「ええ度胸やんけハゲ。 身の程思い知らせたるわ」

 五十鈴がカグラの家に厄介になってから毎日繰り返される光景を横目で見ながら、五十鈴は嘆息したが、すぐに僅かな笑みを浮かべていた。


……結局カグラ達が出発するのはそれから二時間以上後だったと言う。


月光龍 ( 2015/07/14(火) 14:31 )